高付加価値旅行とは?市場規模から成功の鍵まで図解でわかりやすく解説

コロナ禍を経て、訪日インバウンド観光は新たな時代を迎えました。単に旅行者の「数」を追う時代は終わり、いかにして旅行者一人ひとりの滞在価値、すなわち「質」を高めていくかが、日本の観光産業全体の未来を占う重要な鍵となっています。

その中心にあるのが、「高付加価値旅行」という考え方です。

  • 「うちの地域には、富裕層が泊まるような豪華なホテルはないから関係ない」
  • 「高付加価値旅行という言葉は聞くけれど、具体的に何をすれば良いのか分からない」

もしあなたが、このような悩みを抱えているなら、この記事は必ずお役に立てるはずです。高付加価値旅行は、一部の特別な地域だけのものではありません。その本質を正しく理解し、戦略的に取り組むことで、どんな地域にも大きな好機が生まれます。

本記事では、最新の公式データを基に、高付加価値旅行の基本から、旅行者が本当に求めているもの、そして成功に不可欠な具体的な取り組みまで、分かりやすく解説していきます。

そもそも「高付加価値旅行」とは?単なる“富裕層向け旅行”との違い

まず、言葉の定義から確認しましょう。日本の観光戦略を主導する観光庁は、「高付加価値旅行者」を「1人あたりの日本滞在中の消費額が100万円以上の訪日外国人旅行者」と定義しています 。(出典:観光庁:訪日旅行での高付加価値旅行者の誘致促進

しかし、ここで最も重要なのは、「100万円」という金額そのものではありません。注目すべきは、彼らが「何に」お金を使っているのか、その消費の先に何を求めているのか、という点です。

高付加価値旅行は、高価なブランド品を買ったり、豪華なホテルに泊まったりすることだけを指すのではありません。彼らの多くは、世界中を旅した豊富な経験から、ありふれた観光では満足しない、旺盛な知的好奇心を持っています。

彼らが真に求めているのは、その土地ならではの文化や自然に深く触れ、自身の人生を豊かにする「本物の体験」です。そして、その価値ある体験に対して、相応の対価を支払うことを厭わないのです。

つまり、高付加価値化への挑戦とは、単に高価な商品を並べることではなく、地域の魅力の本質を見つめ直し、旅行者の心に響く「忘れられない物語」をいかに提供できるか、という挑戦に他なりません。

高付加価値旅行の定義

データで見る!急成長する日本の「高付加価値旅行」市場

では、高付加価値旅行市場は、今どのような状況にあるのでしょうか。日本政府観光局(JNTO)が発表した最新の調査結果から、その実態を見ていきましょう。
(※以下、JNTOが2025年6月に発表した2023年のデータを主なソースとして記載します。)

市場はコロナ前から爆発的に成長

近年、訪日高付加価値旅行市場は著しく伸びています。コロナ前の2019年とコロナ明け2023年の数字の比較は次のとおりです。

  • 旅行者数:59.0万人(2019年比 +83.2%)
  • 消費額:1.0兆円(2019年比 +50.6%)

驚くべきは、その伸び率です。同期間の世界全体の高付加価値旅行市場の伸び(旅行者数+32.5%、消費額+17.6%)と比較しても、

日本の成長がいかに突出しているかがお分かりいただけるでしょう

インバウンド全体に占める重要性が急上昇

さらに注目すべきは、インバウンド市場全体に占める割合の変化です。

  • 旅行者数の割合:1.0% (2019年) → 2.4% (2023年)
  • 消費額の割合:14.0% (2019年) → 19.1% (2023年)

つまり、

全訪日客のわずか2.4%に過ぎない高付加価値旅行者が、全体の消費額の約2割を生み出しているのです。この数字は、彼らが地域経済に与える影響の大きさを明確に物語っています。

高付加価値旅行の市場に占める割合

市場を牽引するのはどの国・地域か?

市場の構成にも大きな変化が見られます。2023年の消費額割合の上位3市場は、中国(23.0%)、米国(16.3%)、台湾(13.1%)でした

特に、2019年と比較して、

米国のシェアが11.1%から16.3%へ、台湾が4.7%から13.1%へと著しく増加している点は、今後の戦略を考える上で非常に重要です欧米豪からの旅行者は滞在期間が長く、日本の文化や自然への関心が高い傾向にあるため、地方への誘客を考える上でまさに理想的な顧客層と言えます。

高付加価値旅行者が本当に求めている「6つの要素」

多様な旅行者がいますが、彼らが共通して「価値が高い」と感じる体験には、いくつかの要素があります。これらは、成功するコンテンツを開発するための基礎要件と言えるでしょう。

  1. 本物であること (Authenticity)
    • 地域の歴史や文化、人々の暮らしに深く根差した、作り物ではない体験。
  2. 独占性があること (Exclusivity)
    • 「自分だけ」「この場所だけ」という特別感。例えば、美術館や寺社の夜間貸切、通常は入れない場所への特別な案内など。
  3. 個人の要望に応えること (Personalization)
    • 旅行者一人ひとりの興味や関心に合わせて、旅程が柔軟に設計されていること。
  4. 専門家がいること (Expertise)
    • 歴史や建築、食など、特定の分野に深い知見を持つ専門家による案内。旅の価値を飛躍的に高めます。
  5. 確かな評価があること (Reputation)
    • 世界遺産のような客観的な評価や、信頼する人からの紹介。
  6. 価格に見合う価値があること (Value for Money)
    • 支払う価格に対して、それ以上だと感じるほどの感動、学び、インスピレーションが得られるか。

これらの要素は、彼らが単なる消費者ではなく、自らの人生経験を豊かにする「編集者」であることの証です。提供者側には、彼らが「編集」したくなるような魅力的な「素材」を豊富に用意することが求められます。

高付加価値旅行に求められる6つの要素

成功のフレームワーク「ウリ・ヤド・ヒト・アシ・コネ」を徹底解説

では、具体的にどうすれば高付加価値な体験を生み出せるのでしょうか。観光庁は、そのための重要な5つの構成要素として「ウリ・ヤド・ヒト・アシ・コネ(海外とのネットワーク)」を挙げています。

重要なのは、これらの要素が「掛け算」で機能するということです。どれか一つが突出しているだけでは不十分で、これらが有機的に連携して初めて、旅行者の期待を超える価値が生まれます。

1. ウリ(体験コンテンツ):記憶に残る「本物」とは

高付加価値旅行の中核をなす、体験そのものです。

  • 課題:地域の魅力的な資源が、洗練された体験コンテンツに磨き上げられていない。
  • 成功の鍵「本物」「没入感」「希少性」の3つ。他では決して真似のできない、唯一無二の体験を提供すること。
  • 具体例
    • 文化・歴史:非公開文化財の専門家付き特別拝観、人間国宝の工房プライベート訪問
    • :予約困難店のシェフによる出張料理、歴史ある酒蔵での蔵元と楽しむペアリングディナー
    • 自然:世界的な建築家と巡るアートの島、生態系に詳しい専門家と行く国立公園の秘境探訪

2. ヤド(宿泊施設):単なる寝床ではない、物語を紡ぐ空間

旅の疲れを癒すだけでなく、旅の体験そのものを構成する重要な舞台です。

  • 課題:地方における上質な宿泊施設の絶対的な不足。
  • 成功の鍵「プライバシー」「快適性」「物語性」の三位一体。
  • 具体例
    • 一棟貸しヴィラ:専属の料理人や執事が付く、完全なプライベート空間
    • 古民家・歴史的建造物の再生宿:その土地の歴史や文化を体感できる宿泊体験
    • 城泊(キャッスルステイ):城主になったかのような、非日常体験の極致

3. ヒト(人材):旅の価値を最大化する専門家

どれほど素晴らしい「ウリ」や「ヤド」も、それらを繋ぎ、価値を最大化するのは「ヒト」の力です。

  • 課題:旅行者の高度な要求を理解し、質の高い案内ができる専門人材の圧倒的な不足。
  • 成功の鍵:語学力に加え、特定の分野における深い専門性、心に寄り添うおもてなしの心、柔軟な問題解決能力
  • 具体例:
    • 専門プライベートガイド:歴史、美術、食などのテーマに特化した案内で、旅に知的な深みを与える。
    • 旅行デザイナー:旅行者の要望を汲み取り、世界に一つだけのオーダーメイドの旅を企画・手配する。

4. アシ(移動手段):ストレスのない特別な移動体験

単なる移動ではなく、旅の快適性と特別感を演出する重要な要素です。

  • 課題:地方における、空港や観光地間の快適な二次交通の不足。
  • 成功の鍵:移動に伴うあらゆるストレスをなくし、移動時間そのものを旅のハイライトに変えること。
  • 具体例:
    • ヘリコプターチャーター:陸路では時間のかかる場所へ劇的に移動時間を短縮し、上空からの絶景という非日常体験を提供。
    • 快適なハイヤー:質の高い運転手による、ストレスフリーでシームレスな移動。

5. コネ(販路):ハイエンド層を顧客に持つ企業や個人とのネットワーク

実際の販売・誘客につなげるためのネットワーク構築が必要です。

  • 課題:待ちの姿勢で、実際の販売・誘客につながらない。
  • 成功の鍵:とにかく営業活動を行い、顧客のニーズに触れながらキープレイヤーとの関係構築を行う。
  • 具体例:
    • 展示会への参加:ILTMをはじめとした高級旅行展示会に出展しバイヤーとの接点を確保。
    • 定期的なコンタクト:定期的にバイヤーとコンタクトを取り、魅力をインプット。

高付加価値旅行成功のフレームワーク

まとめ:高付加価値旅行は、すべての地域に眠る「宝探し」から始まる

見てきたように、高付加価値旅行市場は驚異的なスピードで成長しており、日本の観光にとってその重要性は増すばかりです。

そして、その成功の鍵は、決して豪華な施設や高価な商品だけにあるわけではありません。自分たちの地域にしかない「本物の価値」は何か。それを、旅行者が心から感動する「物語」として、どうすれば伝えられるか。この問いこそが、すべての出発点となります。

まずは、足元に眠っている地域の魅力を再発見し、それらを「ウリ・ヤド・ヒト・アシ・コネ」の視点で磨き上げていくこと。その先に、インバウンド観光の新たな未来が拓けているはずです。

訪日インバウンドナビを運営する株式会社no borderでは高付加価値旅行についてコンテンツ造成や誘客支援を行っています。少しでもご興味がある方はお気軽に以下のフォームからお問い合わせください。

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